東京地方裁判所 昭和37年(ワ)4024号 判決 1963年1月28日
判 決
原告
酒井建設工業株式会社
右代表者代表取締役
酒井利勝
右訴訟代理人弁護士
稲沢清起智
稲沢宏一
被告
名鉄運輸株式会社
右代表者代表取締役
土川元夫
右訴訟代理人弁護士
島田清
右当事者間の損害賠償請求事件について、つぎのとおり判決する。
主文
1 被告は、原告に対し金一、九〇九、二五〇円およびこれに対する昭和三七年六月一〇日以降右支払すみにいたるまでの年五分の割合の金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用中六〇〇円は原告の負担とし、その余は被告の負担とする。
4 この判決は、第一項に限り、仮りに執行することができる。
事 業
原告訴訟代理人は、「1被告は原告に対し二、〇二九、二五〇円およびこれに対する昭和三七年六月一〇日以降右支払ずみにいたるまでの年五分の割合の金員を支払え、2訴訟費用は被告の負担とする」との判決および仮執行の宣言を求め、その請求原因として、つぎのとおり述べた。
一。訴外園田辰三は、昭和三七年二月七日午前五時三〇分頃被告所有の大型貨物自動車(フソウ61年型登録番号愛一―あ―七八七〇)を運転して東京都中央区昭和通りを新橋方面から三原橋方面に進行してきたが、中央区銀座七丁目一番地先で市場通りに向つて右折した際同地点に停車していた原告所有のP&H五五TC型クレーン車(登録番号八―ろ―〇〇九六、以下原告車という)のクレーンの先端に前記被告所有自動車(以下被告車という)の運転室後方防護アンクル右側を衝突せしめた。原告所有クレーン車は、そのために一米程横すべりし、クレーン部分および運転台を破損した。
二、事故の現場は、都営一号線地下鉄工事の現場であつて、原告は、当時警視庁築地警察署長から夜間二二時から朝六時まで現場における道路内工事施行の許可をうけ、これにもとづいて工事施行中であつた。
1 原告は、昭和三七年二月六日夜から現場の図面(イ)(ロ)(ハ)(ト)(ヘ)(ホ)(イ)の部分(一区)で「滑り止め」作業を、同図面(ホ)(ニ)(ト)(ヘ)(ホ)の部分(二区)で路面覆工作業をしていたが、木材の吊上げに使用するため原告車を(ニ)(ト)沿いに右(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(イ)の路面部分の外側に停車させ、その工事中は、(イ)(ロ)間は通行止めとして図面赤色点線のとおり一般車が通行するようにしていた。
2翌二月七日午前四時三〇分頃一区の滑止め作業が終了したので現状作業員は(イ)(ロ)間に配置してあつた赤色注意灯及びバリケードを撤去し、作業継続中の二区のために(ホ)(ヘ)間に赤色注意灯及びバリケードを配置し、(イ)(ロ)間の通行止めを解いた。
3 事故発生直前二区の原告車による木材の吊揚作業が終了し、原告車は走行姿勢に戻された。
4 事故発生の午前五時三〇分分前後の現場の模様は、前段に説明した状況の外、
(イ)図面一、二、三、四、五、八、九の各地点にそれぞれ二二〇ボルト、五〇〇ワツトのリフレクター型投光機が置かれ、これらは全部点灯されていた。
(ロ) 図面(ホ)(ヘ)間及び(ロ)(ハ)間にそれぞれ赤色注意灯及びバリケードが配置されていた。
(ハ) 原告車は前記1の位置に停車して六、七の地点にフオーキランプ(黄)をアーム先端に赤色パイロツトランプを点灯していた。
(ニ) 当日の日の出は午前六時三七分で、事故当時天気快晴、薄明り程度
(ホ) 通行諸車は(ハ)(ト)間を自由に通行していた。
このような現場の状況であつて、原告車のアームが(ト)(ハ)沿いに若干(ト)から(ハ)よりに出ていたが、そのことは何人にも容易に確認することができる状況にあつた。
5 訴外園田辰三は、このような現場に前段のとおり進行してきたのであるが、このような現場では法定制限の限度の高さの車輛を運転する者としては他の車が自由に進行しているからとして漫然と進行すべきではなく、前方を注視して万全の警戒をし、障碍物があるときはこれをさけ、事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるにもかかわらず、同訴外人はこれを怠り、原告車に前記のとおり損傷を加えたのである。
6 そして、園田辰三は被告に雇われ、被告の営業たる貨物輸送に従事中にこの事故を起したのであるから、被告はこれによつて原告がうけた損害を賠償すべき義務を負うのである。
三、この事故によつて、原告がうけた損害はつぎのとおりである。
1 原告車のアーム及び運転台の修理費七〇九、二五〇円の支出によるもの
2 原告車修理中(昭和三七年二月七日から同月二八日まで)代用クレーン車借上料一三二万円の支出によるもの
四、仍て、原告に対し損害の賠償として右支出金合計二〇二九、二五〇円及び本件訴状送達の翌日である昭和三七年六月一〇日以降完済までの民法所定の年五分の遅延損害金の支払を求める。
被告訴訟代理人は原告の請求を棄却する旨の判決を求め、答弁としてつぎのとおり述べた。
一、請求原因第一項は認める。
二、同第二項中事故現場が都営一号線地下鉄工事の現場であつて原告が当時現場においてその主張のとおり工事施行中であつたことは認める。1の事実は知らない。2の事実は認める。3の事実は知らない。4の事実のうち(イ)は知らない、(ロ)は認める、(ハ)のうち原告主張の地点にフオキーランプが点灯されていたことは知らない。原告車のアームの先端に赤色パイロツトランプが点灯されていたことは否認する。原告車の車体は図面Dの部分に約一米の高さに積んであつた工事用材料等の蔭にあつたのでフオキーランプがついていたかどうかは判らなかつたのである。(ニ)及び(ホ)の事実は認める。したがつて、原告車のアームは工事地域外の諸車自由通行路上に無灯火でつき出していたのであつて、何人にも直ちに確認しえられる状況にあつたものではない。5の事実は争う、(ホ)(ヘ)間、(ロ)(ハ)間には赤色灯が配置されていたけれども、(イ)(ロ)間はすでに解放され、(ハ)(ト)間の路面には走行上障碍となる何物も認められなかつたので被告車は安心して進行したのである、アームの突出を放置した原告こそ不注意であり、本件事故発生の最大の原因を与えた者なのである。6の事実は認める。
三、同第三項は争う。
立証関係≪省略≫
理由
一、請求原因第一項(事故の発生)の事実は当事者間に争がない。
二、請求原因第二項のうち事故現場が都営一号線地下鉄工事の現場であつて、原告が当時現場においてその主張のとおり工事施行中であつたことは当事者間に争がない。1の事実は証人(省略)の証言によつて認めることができ、2の事実は争いがない。3の事実も証人(省略)の証言によつて認めることができる。4のうち(ロ)(ニ)及び(ホ)の事実は当事者間に争なく、証人(省略)の証言を合せれば(イ)、(ハ)の事実を認めることができる。被告は(ハ)のうち原告主張の地点にフオキーランプが点灯されていたことおよび原告車のアームの先端に赤色パイロットランプが点灯されていたことを争い、証人(省略)の証言によれば工事現場では(イ)および(ロ)の方面からの照明はされていたがその外の照明のことは記憶がない旨また原告車のアームの先端に点灯されていたことは確認していないがもしあれば気付いた筈である旨の供述があるがこの供述によつては前認定をくつがえして被告の主張を認めることができる程に確かなものではない。他に右認定をくつがえすに足りる証拠はない。また、被告は、原告車の車体は図面Bの部分に約一米の高さに積んであつた工事用材料等の陰になつていたので六、七の地点にフオーキーランプが点灯されていたのはみえなかつた旨主張するけれども、そのような事実の存否にかかわらず被告車の運転者は、新橋方面から進行してきて、1の部分に入り右折した時には二、三、四等の各地点に配置、点灯されていた二二〇ポルト、五〇〇ワットのリフレクター型投光機によつて原告車の所在を容易に確認することができた筈であるから、この主張は格別右認定を左右するに足るものといえない。
5右のような現場の状況下において前段認定のような事故が生じたのであつてみれば、それは、被告車の運転者園田辰三において前方を注意していて原告車をさけようとすれば通常人の注意をもつてよくさけえた筈であるのに怠つたものというの外ないしだいである。これに対し被告はアームの突出を放置した原告こそ不注意であつて、本件事故について最大の原因を与えたものである旨主張するけれども、証人(省略)の各証言によれば、本件事故は原告側の現場作業を終り、通行障碍となつていたバリケード撤去中に起きたものであるが、(ト)(チ)間のバリケードの存否にかかわらず、原告車のアームの存在が被告車運転者の視界にさらされていたこと前認定のとおりであつてみれば、これ以上に原告に事故をさけるための注意義務を課するのは聊か厳しきにすぎるというべく、被告のこの点の主張も採用しない。
6しかして、この事故は、被告車運転者園田辰三が被告の営業たる貨物運送の業務に従事中にひき起したものであることは当事者間に争がない。したがつて、被告は民法第七一五条の規定によつて、この事故によつて原告がうけた損害を賠償すべき義務あるものである。
三、しかして、(証拠―省略)を併せ考えれば、原告は右事故によつて破損した原告車の修理のために七〇九、二五〇円を支出して同額の損害をうけ、破損後修理完了までの昭和三七年二月七日から同月二七日にいたる間代用車を借り上げたために昭和三七年四月一一日その賃料として一二〇万円を支払い、同額の損害をうけたことを認めることができるけれども、それ以上に原告が代用車借上料の支払をしたことは認めるに足る証拠がない。
四、果してしからば被告は原告に対し本件事故による損害の賠償として前段合計金一、九〇九、二五〇円を支払うべき義務あるものであつて、原告の請求は右一、九〇九、二五〇円とこれに対する本件訴状送達の翌日であることの記録上明かな昭和三七年六月一〇日以降支払ずみにいたるまでの民法所定の年五分の遅延損害金の支払を求める限度において理由があるから、正当として認容すべきも、これを超える部分は失当として棄却し、民訴九二条、一九六条一項の規定を適用して主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第二七部
裁判官 小 川 善 吉